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高知地方裁判所 昭和49年(行ウ)4号 判決 1983年12月19日

原告 宗石次男 ほか九六名

被告 大栃営林署長 ほか一名

代理人 武田正彦 都嵜清孝 安藤文雄 関安喜良 金子敏広 ほか一一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実<省略>

理由

第一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

第二  抗弁について

一  抗弁1(国有林野事業の概要と原告らの勤務関係)の事実は当事者間に争いがない。

二  国有林野事業の機能

右当事者間に争いがない事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。

林野庁所管の国有林野の面積は七八四万ヘクタールで、国土面積の二一パーセント、全森林面積の三一パーセントを占め、また、国有林野の蓄積は八億七六〇〇万立方メートルで、わが国森林資源の四六パーセントを占めている。そして、民有林が比較的便利な里山に所在しているのに対し、国有林野の大部分は、各地のせきりよう山脈沿いの比較的奥地に分布し、国土の保全、水資源のかん養、自然環境の保全、保健休養の場の提供等の公益的機能を重視すべき森林が多い特色を有している。

国有林野事業は、このような国有林野を統一的かつ計画的に管理運営する国営企業であつて、専ら利潤追求を目的とする民有林事業と異なり、右のような森林のもつ公益的機能を確保しつつ、森林資源の培養及び森林生産力の向上に努めることにより、重要な林産物の持続的供給を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。林野庁は、このような目的を達成するため、企業性の確保を考慮しつつも、各種の事業を適切に管理経営することによつて、国産材供給量の約三割(昭和四六年度)を供給してその需要及び価格の安定に資するとともに、全国的立場で計画的に森林資源の開発、改良を進め、森林経営を通じて国土の保全を確保しているほか、治山事業の積極的、計画的推進及び保安林の整備等を行つている。

三  本件四・八スト及び五・二五ストの背景と経緯

1  作業員の雇用形態と待遇について

抗弁2の(二)及び(三)の事実のうち、当事者間に争いがない事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 一般に林野事業の経営は、造林、種苗事業のように作業適期が春から秋に限定され、また、積雪地帯では冬の作業遂行は不可能であるなど、その事業の性質上自然的、季節的要因に左右される面が多い。そして、国有林野事業の特殊性として、地方的な労務事情や地元との関係といつた事情(いわゆる対境関係)が存する。すなわち、作業員のほとんどは地元雇用であるため、就労場所の範囲を拡大し、流動化を図ることが困難である。また、古くから伐採や造林の請負を通じて地元民が国有林に収入の場を求めており、無視し得ない事情となつている。

以上のような諸事情から、国有林野事業においては、年間を通じて平準化した事業を継続することは困難であるため、作業員の雇用形態については、かねてより臨時的雇用制度がとられてきた。その歴史的な経緯は、次のとおりである。

(二) すなわち、国有林野事業は、昭和二二年にいわゆる林政統一が実現して従来の農林省、内務省の内地国有林、御料林、北海道国有林の各所管が一本化され、それと併行して林野会計法が制定され、独立採算制を指向することになつた。そして、作業員の身分については、同年制定の国公法では国家公務員の特別職とされ、翌二三年の国公法の改正により一般職の非常勤職員とされた。ところで、昭和二四年、恒久的な行政組織を恒常的に構成する職の定員を規制するために定員法が制定されたが、作業員については、通年雇用されていた者までもが「日々雇い入れられる者」として同法の適用外に置かれた。そして、昭和二五年九月、人事院事務総長通牒をもつて、定員外職員のうち、継続して勤務することを例とする官職にある者を常勤職員として取り扱う常勤労務者制度が発足したが、作業員のうち、出来高給制により給与を受けていた者については適用外とされた。

林野庁は、右のとおり非常勤職員とされた作業員について全国統一的な取扱いを定めるため全国の実態を調査し、昭和二五年九月に「営林局署労務者取扱規程」、昭和二六年三月には「営林局署労務者処遇規程」を定めた。この規定は、作業員の処遇等につき、当時全国区々であつたものを改めて統一した基準を設けたことにより国有林野事業始まつて以来の画期的なものと評価された。その後、昭和二八年に国有林野事業の労働関係には公労法が適用されることとなり、同年一月林野庁と全林野との間に「労働条件の暫定的取扱いに関する協定」が結ばれ、更に昭和二九年三月には「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び解雇の場合に関する覚書」が締結され、労使協議による雇用制度として常勤作業員、常用作業員、定期作業員、臨時作業員の新雇用区分が定められた。そして、昭和三〇年四月には、職員就業規則、作業員就業規則が制定され、後者の中に右雇用区分が規定され、更に常用、定期、臨時の各作業員の賃金については、昭和三六年九月に三六林協第三五号協約が結ばれ、昭和三七年一一月には、定期作業員等の優先雇用に関する確認がなされた。かかる変遷を経て、昭和四四年四月に前記昭和二九年三月の覚書を改正した「雇用区分等覚書」が締結され、常勤作業員等を除く定員外職員として常用作業員、定期作業員、臨時作業員の雇用区分、雇用基準等が定められ、この覚書による雇用区分等は、昭和五三年一月に基幹作業職員制度が施行されるまで存続した。

なお、定員法施行後の昭和三六年二月、「定員外職員の常勤化の防止について」の閣議決定がなされて、新しい定員規制が行われることとなり、その移行措置として昭和三七年までに、長期に勤務する非常勤職員の定員化が実施されたが、国有林野事業の現場に勤務する作業員については、事業によつて変動しうる要員であつて、あらかじめ定数を定めうるものには該当しないとして、その対象から除外されたため、依然として身分や処遇における定員内職員との格差が残存することとなつた。

(三) 本件各スト当時における作業員の地位、処遇等は、次のとおりである。

作業員は、いずれも非常勤職員としての資格で人事院規則八―一四「非常勤職員等の任用に関する特例」に基づき採用される。前記「雇用区分等覚書」によれば、作業員の雇用区分は、前記のとおり常用作業員、定期作業員及び臨時作業員の三つに区分されており、雇用基準は、いずれも職務に必要な適格性を有することのほか、常用作業員については、「一二か月を超えて継続して勤務する必要があり、かつ、その見込みがあること」及び「事業運営上の必要による勤務地の変更に応じられること」、定期作業員については、「毎年同一時季に六か月以上継続して勤務することを例とする必要があり、かつ、その見込みがあること」及び「事業運営上の必要による勤務地の変更に応じられること」、臨時作業員については、「常用作業員及び定期作業員以外で臨時に勤務する必要があること」の各基準が定められている(別紙(三)「定員外職員の雇用区分・雇用基準」参照)。そして、常用作業員は、雇用期間(二か月)の更新により実質上通年雇用となつており、定期作業員は、雇用期間(二か月)の更新による六か月以上一年未満の有期の雇用であるが、優先雇用に関する確認により翌年の作業適期には優先的に再雇用されており、しかも失職期間中は、退職手当法一〇条による退職手当又は失業保険法による失業保険金を受給している。

国有林野事業に従事する職員の賃金については、給特法が適用され、同法三条二項により国家公務員及び民間企業の従業員の給与その他の事情を考慮して定められるが、定員外職員である作業員については、具体的には前記三六林協第三五号協約によつており、同協約は、作業員の基本賃金につき日給制をとり、支払形態として定額日給制と出来高給制を定めている。これら賃金額の決定については、毎年団体交渉が行われるが、合意に達することがほとんどなく、公労法に基づく公労委による調停又は仲裁によつて解決されている。昭和四六年度の賃金水準をみると、定員内職員が七万三三二一円であるのに対し、作業員は五万八〇七五円となつている。

そして、常用作業員及び定期作業員に対しては、夏期手当、年末手当、年度末手当、石炭手当、薪炭手当、寒冷地手当等が支給されるが、定員内職員と比べて格差があり、定員内職員には支給される現場手当、遠隔地手当の制度もない。また、諸休暇についても、年次有給休暇が定員内職員では勤続一年以上の者で二〇日を与えられるのに対し、常用作業員では勤続一〇年以上でなければ二〇日が与えられず、定期作業員には六日しか与えられない。国民の祝日は、定期作業員については無給(但し、年休に準じた有給休暇三日を与えられる。)であり、婚姻、配偶者の分べんに際しても、定員内職員には有給休暇が与えられるのに、常用作業員、定期作業員では無給休暇しかなく、その他生理日、忌引、公務災害、私傷病による休業手当でも定員内職員との間に格差が存する。更に、退職手当法の四条、五条及び共済組合法の適用に関しても定員内職員と常用作業員との間には格差があり、定期作業員にはそもそも退職手当法三条ないし五条や共済組合法の適用がない。勤務時間においても、定員内職員では週四四時間であるのに、常用作業員、定期作業員では週四八時間であり、その他宿舎貸与や制服供与に関しても差異がある。

2  雇用安定化・処遇改善をめぐる労使交渉の経緯

抗弁2の(四)及び(五)の事実のうち、当事者間に争いがない事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は措信できない。

(一) 全林野は、作業員が恒常的業務に従事しているとの前提に立つたうえで、前記のような臨時的雇用制度と定員内職員との処遇格差を改善すべく労働運動を進めていたところ、林野庁は、全林野の要求に対し、昭和四一年三月二五日に直営直用による雇用安定化の検討と通年化の努力の意向を表明、確認し(「三・二五確認」)、更に同年六月三〇日には、基幹要員の臨時的雇用制度の抜本的改善による雇用の安定化と、当面の措置として生産事業の通年化による通年雇用及び事業実施期間の拡大、各種事業の組合せによる雇用期間の延長化を要旨とする作業員の雇用安定化のための方針を表明、確認した(「六・三〇確認」)。これがいわゆる「二確認」と称されるものであり、作業員の雇用安定化・処遇改善の問題は、この「二確認」をどう具体化し実現するかにあつた。

(二) 林野庁は、「六・三〇確認」の後、雇用制度検討会を設置し、制度改正の具体化の検討に着手し、他方全林野は、昭和四二年一〇月、臨時的雇用制度の抜本的改善、基幹要員全員の常用化、常用作業員の処遇改善等を内容とする「差別撤廃要求書」を林野庁に提出した。右要求のうち、臨時的雇用制度の抜本的改善の点につき、林野庁は、昭和四二年一一月の時点においては「結論を得るには、なお相当の日時を要する」旨回答せざるを得なかつたが、その後、労使の交渉とこれに基づく確認事項が重ねられるうち、林野庁は、昭和四三年一一月に雇用制度改正の事務段階素案を全林野に対し非公式に説明し、次いで同年一二月の団体交渉において、「基幹要員の臨時的雇用制度を抜本的に改める方向とは、<1>基幹要員については通年雇用に改める、<2>基幹要員については常勤性を付与する、<3>処遇改善についても常勤性にふさわしいように改善する、という方向である。」旨表明した。もつとも、右方向に沿つた雇用制度の改正については、まず関係省庁との協議、了解が必要であるところから、右表明にあたつては、早期実現には困難があることを全林野にも十分に説明した。その後、林野庁は、雇用制度改正に伴う予算措置及び共済組合法との関連については大蔵省と、国公法及び人事院規則との関連については人事院と、前記昭和三六年の常勤化防止の閣議決定との関連については行政管理庁と、退職手当法との関連については総理府人事局と折衝したが、作業員の雇用形態と現行の公務員法制及び昭和三六年閣議決定との関係を調整する必要があり、かつ、他省庁の雇用のあり方との関連から政府全体の任用方針との間にも更に調整を要するなどの理由で、これら関係省庁の了解を得るに至らなかつた。

(三) 林野庁は、その後も関係省庁と鋭意折衝を進めるかたわら、全林野の早期実現要求にこたえて、関係省庁の了解が得られるものと仮定したうえで林野庁なりの雇用制度改正案をまとめ、昭和四五年七月に全林野に対し非公式に提示した。これがいわゆる「七月提案」と称されるものであり、その要旨は、現行の常用、定期、臨時の雇用区分を基幹作業員と臨時作業員に改正し、基幹作業員については、資格要件を定めて経験年数、技能その他の選考基準により、現行の常用、定期の作業員の中から人事院規則八―一二「職員の任免」に基づいて任用し、処遇についても国公法上の常勤職員として取り扱うというものであつた。これに対して全林野は、「二確認」の基幹要員とは現行の常用作業員及び定期作業員の全員を指すもので、選考により基幹作業員と臨時作業員を区分することは新たな差別を設けることになるとして反発するとともに、全作業員についての常勤性の付与を強く要求し、昭和四五年九月には、常勤性の付与につき早期の具体化、実現を求める総合的要求書を提出し、更に同年一二月一一日には、全国六七分会において組合員約四〇〇〇名の参加のもとに半日の拠点ストライキを実施した。林野庁は、その後も作業員の雇用制度改善について昭和四六年度実施を目指して関係省庁との折衝を重ねたが、その了解を得るに至らず、同年度の実施は見送らざるを得ない状況となつた。

(四) 他方、作業員の臨時的雇用制度改善の問題は、昭和四六年三月二三日の第六五回国会衆議院内閣委員会、同農林水産委員会でも論議されるところとなり、林野庁及び関係省庁の担当者の答弁を通じて、林野庁と関係省庁との調整が極めて困難であることが明らかにされ、同年四月一三日の衆議院農林水産委員会においては、林野庁長官が、関係省庁との協議に基づく政府統一見解として、「国有林野事業の基幹的な作業員は、その雇用及び勤務の態様からすれば、長期の継続勤務となつていること等、常勤の職員に類似している面があるものと思料されます。しかしながら、これらの基幹的な作業員を制度的に常勤の職員とすることについては、国家公務員の体系にかかわるなかなか困難な問題でもあるので、慎重に検討してまいりたいと存じます。」との見解を表明した。この政府統一見解により、作業員の臨時的雇用制度改善の問題は、政府全体により今後検討を必要とする高度の政治問題にまで発展した。なお、これに先立つ昭和四六年三月二五日の衆議院農林水産委員会において、国有林野の活用に関する法律案の審議に関連して林興決議がなされたが、この中で作業員の処遇改善問題もとり上げられ、「国有林野事業の健全な発展を期するため、基幹労働者については、常勤職員との均衡を考慮しつつ処遇の改善に特段の措置を講ずること」が勧告された。

(五) 林野庁は、政府統一見解に関連して、昭和四六年四月一四日「常勤性付与について」の態度表明を行つた。すなわち、「国有林野事業の基幹的な作業員の勤務形態の取扱いについては、関係省庁と鋭意折衝を続けてきたが、昨日、国会において表明したとおり、常勤の職員とすることについては、なかなか難しい問題であり、慎重に検討を要するところとなつた。しかしながら、作業員の勤務の態様からすれば、単純な非常勤職員ではないという各省庁の認識であり、今後は、この見解に沿い、また、林興決議の趣旨も尊重し、その処遇のあり方について真剣に検討してまいりたい。」旨の基本姿勢を明らかにした。これに対して全林野は、同月一六日、「常勤性確立についての具体化メモ」を提示し、林野庁に対して、臨時的雇用制度の抜本的改善について政府としての結論を早急に出させるよう努力することを要請するとともに、現行の雇用区分、雇用基準を前提としたうえで常用作業員の処遇を常勤職員と同様とすること(但し、基準内賃金の点は除外する。)、定期作業員については、常用作業員に準じて処遇改善を図ること、出来高給制をなくし、常勤制度にふさわしい賃金制度を確立するための特別の専門委員会を設けること、並びに常用化促進の具体化計画を早急に提示することを要求した。そこで、林野庁は、「<1>政府としての結論を得るよう引き続き努力する。<2>常用作業員の処遇を常勤職員と同様とすることについては、現段階において将来の目標を明示することは困難であるけれども、常用作業員の勤務態様に鑑みて、労働力の適正配置等による生産力の向上に配慮しつつ改善の方向で真剣に検討する。<3>定期作業員についても、常用作業員との関連で更に検討する。<4>出来高給制は、これを廃止する考えはないが、その現状に鑑み、その内容については、十分吟味のうえ協議することとする。<5>今後の常用化については、昭和四六年八月の全体業務計画作成の際、説明することとする。」旨回答したが、全林野は、右回答を納得できないとし、特に、臨時的雇用制度の抜本的改善までの当面の措置としての処遇改善については、その具体的な方向の明示を強く要求した。しかしながら、林野庁は、「制度化の内容、予算との関連等から長期的見通しに立つて慎重に検討しなければならないので、現段階では具体的な方向を示すことはできない。」として従前の見解を維持したため、全林野は、かかる林野庁の対応を不満として、同月二三日、全国七二分会において組合員約五三〇〇名の参加のもとに四時間にわたる拠点ストライキを実施した。

(六) 前記政府統一見解の表明によつて、臨時的雇用制度の抜本的改善の早期実現が困難となつたため、それに代つて右実現までの当面の措置としての処遇改善問題がクローズアツプされ、前記「常勤性確立についての具体化メモ」の提示及びこれに関する労使交渉の段階において、既に処遇改善目標の提示が要求されていたところ、その後昭和四六年一一月から同年一二月にかけて、処遇改善等についての団体交渉が行われ、この席上において、全林野は、昭和四六年一二月末までに処遇改善目標を明らかにすることを要求したのに対し、林野庁は、「組合の強い要望もあり、昭和四七年三月末頃には処遇改善の目標の概要について説明できるよう努力したいと考えている。」と回答した。

昭和四七年三月三一日、林野庁は、別紙(四)記載の「常用・定期作業員の処遇改善の目標案」を提示し、その際、「提示にあたつての当局所信」として、「この改善目標は、今後当分の間国有林野事業が置かれるであろう厳しい情勢の中で、基幹的な作業員に対する制度的な問題が解決していない段階において、現行雇用区分を変えない前提に立つて、精一杯の検討をした結果であることを理解願いたい。これらの処遇改善の実施は、合理的な事業運営の体制を確立して、経営の健全化を進めることを前提とするものである。したがつて、この具体的実施は、今後の経営の改善計画の進展にあわせ、生産性向上との見合い及び経営の財政状態が許す限度において逐次実現を図つてゆくものとする。よつて、今後における実施のテンポを早めるためにも、林野庁としては合理的な経営の改善計画の推進を図る必要があるので、組合の積極的な協力を要請する。」旨表明した。これをめぐつて同年四月五日、同月七日の両日にわたつて労使交渉が継続されたが、右改善目標案を「現在考えうる最大限のもの」と主張する林野庁と、「当局の態度は、政府の統一見解等一切を否定する立場に立つており容認できるものではない。」と主張する全林野とが激しく対立し、同月八日、全林野は、林野庁の態度を不満として、全国三三二分会において約二万五〇〇〇名の組合員の参加のもと全一日のストライキを実施した(本件四・八スト)。

その後の昭和四七年五月一一日、日本社会党は、農林大臣に対して「国有林労働者の臨時的雇用制度の抜本改善及び森林の充実と林業振興に関する申入書」を提出し、作業員の雇用安定化・処遇改善の早期実施を求めた。これに対し農林大臣は、同月二四日、「常勤職員としての制度化については、政府統一見解に基づき引き続き関係各省の協力を得て努力する。常用作業員の処遇改善については、常勤職員との均衡を図る方向で目標を明らかにし、その実施について前向きに努力する。定期作業員の雇用の通年化は、短期間には困難であるが、引き続き努力する。」等の見解を表明した。他方、全林野は、同月一一日から団体交渉を再開、継続していたが、事態の進展はないまま推移していたところ、右農林大臣見解の具体化をめぐつて交渉が激しく対立し、林野庁の対応を不満とする全林野は、同月二五日、全国三六四分会において約三万一〇〇〇名の組合員の参加のもとに全一日のストライキに突入した(本件五・二五スト)が、右大臣見解をめぐる「雇用安定等に関する団体交渉議事録抄」を確認し、同日一二時三〇分、突入していた全一日のストライキの中止を指令した。

3  雇用安定化・処遇改善のために実施された施策

抗弁2(五)の(2)の事実のうち、当事者間に争いのない事実に、<証拠略>を総合すれば、林野庁は、独自の立場から全林野の要求に対応し、既に認定した事項のほか、次のような具体的施策を実施し、漸次作業員の雇用安定と処遇改善を図つてきたことが認められる。

すなわち、林野庁は、「二確認」の雇用安定化の趣旨を具体的に実施し、かつ、優秀労働力を安定的に確保するとの観点から昭和四一年一〇月、「直営直用を原則とし、能率性を前提としてこれを積極的に拡大し、雇用の安定を図る。基幹要員の臨時的雇用制度については、抜本的改正を検討するが、さしあたり、製品生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大或いは各種事業の組合せによる雇用期間の長期化の実現等を検討することによつて雇用の安定に努める。」旨を基本方針とする長官通達を発し、当面の措置として、事業については、製品生産事業、造林事業を主体に直営直用の拡大を図り、冬山作業についても可能なものから漸進的に実施し、雇用については、余剰労働力の活用と定期作業員の雇用の通年化・長期化等を図ることとした。その後、冬山作業の実施の可能性の追求や各種事業の組合せ等による事業の平準化を図ることにより、昭和四一年度から昭和四六年度までに合計一万一〇〇〇名余が常用化され、また、昭和四一年当時七・五か月であつた定期作業員の平均雇用期間が、昭和四五年末には八・一か月となつた。更に、昭和四四年には、前記のとおり、昭和二九年覚書を改正した「雇用区分等覚書」が締結されることによつて、従来、常用、定期各作業員は過去一年ないし六か月以上の継続勤務の実績を必要とした点が廃止され、通年雇用のために署間常用の制度が設けられ、臨時作業員の月雇制度が廃止されて極力定期化されるなど雇用の安定化が図られた。

他方、作業員の処遇改善については、まず一部の者について定員化が図られた。すなわち、従来、貨物自動車の運転手、集材機の運転手等で専ら運転業務に従事する常用作業員は定員外職員とされていたが、関係省庁との協議の結果、昭和四一年から昭和四六年にかけて約二七〇〇名が欠員補充方式で定員内職員に繰り入れられた。次に、国民の祝日は、作業員については当初は無給の休日であつたが、労使協議の結果、まず常用作業員に対し、昭和四四年四月以降、年間四日の祝日について祝日特別給(格付賃金相当額)を支給することとなり、昭和四六年九月からは、右特別給の支給が全祝日に拡大され、これによつて常用作業員の祝日の有給化の問題は解決した。一方、定期作業員についても、昭和四六年四月、特例による有給休暇三日が実現し、同年九月には更に二日を追加して五日を有給休暇とすることで妥結をみた。更に、作業員の生理休暇及び忌引は、いずれも無給であつたが、昭和四六年一二月の労使協議により、常用、定期作業員ともに、一生理期間のうち一日について生理特別給を、忌引については、配偶者の場合は七日の範囲内、父母(血族)の場合は五日の範囲内、子(血族)の場合は三日の範囲内においてそれぞれ忌引特別給を与え、いずれについても格付賃金の六〇パーセントに相当する額を支給することになつた。

四  本件四・二七ストの経緯

抗弁3の事実のうち、当事者間に争いがない事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全林野は、昭和四七年三月六日、同年四月一日以降の新賃金に関する要求書を提出し、月給制職員(主に定員内職員)につき平均月額一万七五〇〇円、日給制職員(作業員)につき平均日額一五〇〇円の賃上げを要求した。その後、賃上げ要求をめぐつて林野庁と全林野との間に数次にわたつて団体交渉が行われ、同年四月二四日には、林野庁は、月給制職員につき平均月額四七一〇円(定昇を含め七〇五六円)、日給制職員につき平均二〇五円の賃上げを回答した。その際、林野庁は、国有林野事業の経常収支が極度に悪化していること等から賃上げは極めて難しい状況にあるけれども、職員の積極的な協力を得て、経営体制の刷新、事業の徹底的改善、合理化による生産性の向上及び経費の節減を行うことを前提として右有額回答をするものである旨表明するとともに、全林野に対し、右のような経営状態にかかわらず自主交渉の中で有額回答をした意義を十分理解し、適法な方法による解決に専念し、違法行為を厳に慎むよう要請した。これに対して全林野は、「日給制については、月給制との格差をつめるというこれまでの交渉経緯をふまえている形はみえるが具体的なものがなく、回答額そのものについては、月給制、日給制とも不満である。」として林野庁との団体交渉を打ち切り、翌二五日には公労委へ調停を申請した。そして、全林野は、他方において、既定の計画に基づき、同二六日には、全国二一分会において約一四〇〇名の組合員の参加のもとに始業時から四時間の拠点ストライキを実施し、更に翌二七日にも、公労協統一行動として、全国二一分会において約六〇〇名の組合員の参加のもと全一日の拠点ストライキを実施した(本件四・二七スト)。

なお、公労委は、同日調停委員長見解として月給制職員につき平均月額七七〇六円、日給制職員につき平均日額三五〇円の賃上げを提示したが、調停は不調となり、同日仲裁手続に移行し、同年五月二七日右委員長見解と同額の仲裁裁定により妥結した。

五  本件各ストの実施状況

抗弁4の事実のうち、当事者間に争いのない事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は措信できない。

1  全林野全体の動向

全林野は、昭和四六年七月二三日から五日間函館市で開催された第二二回定期全国大会において、作業員の雇用安定化・処遇改善を図るため、全山で全一日のストライキを反復して闘うこと等の運動方針を決定し、次いで昭和四七年二月二八日、二九日の両日に東京都で開催された第五二回中央委員会において、全山全一日ストを同年四月八日に実施すること、更に同月二〇日、二一日の臨時全国大会で同年五月の全山全一日ストの反復体制をつくり上げること等を決定し、直ちに各地方本部に対し、四・八スト体制の確立等を指令した。そして、同年四月三日には、各地方本部に対し、四・八ストに向けての体制固めを指示するとともに、賃上げ交渉の調停決着段階を同月二七日ないし二八日頃と想定し、その前後に反復ストライキを実施すべく体制の確立に努めている旨の態度表明を行つた。

以上のように、全林野は、四・八ストの体制固めを図るとともに、前記のとおり処遇改善をめぐつて林野庁と交渉を重ねたが、双方が激しく対立するところとなつて本件四・八ストを実施した。

その後、全林野は、同月二〇日、二一日の両日に東京都で開催された第二三回臨時全国大会において、今後の闘争方針として、同月末に三波のストライキで大幅賃上げを実現し、更に同年五月二五日、三一日には全山一日ストを反復して作業員の雇用安定化・処遇改善等を要求することを決定した。そして、全林野は、前記のとおり林野庁との賃上げ交渉、公労委での調停にあたる一方で、賃上げ要求実現のため、同年四月二六日には全林野独自の半日ストライキを実施し、翌二七日には公労協統一行動としての本件四・二七ストを実施した。更に、右臨時大会決定に基づいて全林野は、同年五月六日付をもつて五月二五日、同月三一日の全山一日ストの体制確立を指令したうえ、前記のとおり、同月一一日から作業員の雇用安定化・処遇改善をめぐつての団体交渉を再開、継続していたところ、林野庁と激しく対立するところとなつて本件五・二五ストに突入したが、前記のような事情から同日一二時三〇分にスト中止指令が発せられた。

2  原告らの行動

大栃分会に属する原告らは、四国地本の指示のもとに、次のとおり本件各ストを実施した。

(一) 本件四・八スト

別紙(二)処分事由等一覧表四月八日欄記載の原告らは、被告署長による事前の警告にもかかわらず、昭和四七年四月八日始業時から職務を放棄し、大栃営林署構内(庁舎玄関前)において、勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、更に被告署長による職場復帰命令を無視して、右職場集会を続行するなどして終業時刻まで全一日(八時間)にわたり職務を放棄した(原告ら個々の職務放棄時間は、右一覧表四月八日欄に記載のとおりである。)

なお、当日は終日雨が降つており、午前八時四〇分頃から営林署庁舎玄関前に集つた右原告らを含む約八〇名の集会参加者はそれぞれ雨傘等をさしかけたため、玄関前の広場はほとんどこれらの参加者で埋めつくされた。そして、集会参加者は、管理者の解散要求等に対しては、口々に「署長に会わせろ」「署長出て来い」等怒号罵声でもつて応ずるなどして対抗し、分会役員等のあいさつ、労働歌の合唱、シユプレヒコール等が継続的に行われたため、来客等の庁舎への入室はほとんど不可能であつた。

また、右参加者のうち約一〇名は、午後二時三五分頃、管理者の制止を無視して庁舎内及び署長室に無断で侵入し、署長室の営林署長の机の前に立ち、原告番号1宗石次男が被告署長に対し、要求事項を書いた文書を読み上げその回答を迫つた。これに対し、被告署長は「違法行為の中での話合いには応ずることはできない。交渉はルールに従つてやるべきである。皆さんは既に発出されている業務命令に従つて直ちに職場へ帰るよう。」との警告を発したが、右侵入者らはしばらく口々に要求を掲げ被告署長に回答を迫つた後、午後三時すぎになつてようやく退室した。

(二) 本件四・二七スト

別紙(二)処分事由等一覧表四月二七日欄記載の原告らは、被告署長による事前の警告にもかかわらず、昭和四七年四月二七日始業時から職務を放棄し、大栃営林署事業課、別府製品事業所車庫前において、勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、その後も、被告署長による再三の職場復帰命令を無視して右職場集会を続行するなどし、全一日(八時間)にわたり職務を放棄した(原告ら個々の職務放棄時間は、右一覧表四月二七日欄に記載のとおりである。)

この間、右一覧表庁舎内座り込み者欄記載の原告らは、主婦ら約一〇名とともに、一一時二〇分頃管理者の制止を振り切つて署長室に侵入し、被告署長らの再三にわたる退去要求、職場復帰命令を無視して署長室内に座り込み、一二時一五分頃に退去するまでの間、被告署長に対し、「現場作業員の声を聞いてもらいたい」「今の賃金で生活できると思うか」「誰が不当なことをしているぞ」「署長の考えをいえ」などと、大声で口々に自らの要求の上部進達を迫るなどした。

このように原告らによつて署長室が占拠され、しかも極めて険悪な状態であつたため、この間、被告署長ら管理者に用務のある他職員や来客等の入室がほとんど不可能となつたばかりでなく、署長室と続きの事務室で執務していた職員ら約三五名も、署長室での大声の応対やあわただしい管理者の動き等で執務がじやまされるなど、約一時間にわたり大栃営林署庁舎内での執務に大きな支障を来した。

(三) 本件五・二五スト

別紙(二)処分事由等一覧表五月二五日欄記載の原告らは、被告署長による事前の警告にもかかわらず、昭和四七年五月二五日始業時から職務を放棄し、大栃営林署構内(庁舎玄関前)において、勤務時間内の無許可の職場集会に参加するなどし、更に被告署長による職場復帰命令を無視して右職場集会を続行し、前記スト中止指令により各々職場に復帰するまでの間、およそ五ないし六時間にわたり職務を放棄した(原告ら個々の職務放棄時間は、右一覧表五月二五日欄に記載のとおりである。)

なお、当日の職場集会には約九〇名が押しかけ、玄関前の広場はほとんどこれらの者で埋めつくされた。そして、集会参加者らは、管理者の解散要求等に対し、口々に「署長に会わせろ」「人の集会をテープにとるな」などと罵声でもつて対抗し、更に、管理者に対する抗議、分会役員のあいさつ、労働歌の合唱、シユプレヒコール等が継続的に行われたため、午後一時一五分頃に右集会が解散されるまでの間、来客等の庁舎への入室はほとんど不可能であつた。

六  原告らの行為と懲戒事由

以上認定のような原告らの行為は、形式的にも実質的にも争議行為に該当するものであつて、公労法一七条一項に違反するとともに、職務専念義務を定めた国公法九六条一項及び一〇一条一項、法令及び上司の命令に従う義務を定めた同法九八条一項、信用失墜行為の禁止を命じた同法九九条の各規定にも違反していることが明らかである。

したがつて、原告らについては、国公法八二条各号の懲戒事由に該当するものといわざるを得ない。

第三  再抗弁に対する判断

一  再抗弁1について

原告らは、公労法一七条一項が憲法二八条に違反する旨るる主張するけれども、公労法一七条一項が合憲であることは、名古屋中郵事件判決により明示されているところであるから、右主張は採用できない。

二  再抗弁2について

原告らは、いわゆる合理的限定解釈論を前提としたうえで、国有林野事業に従事する職員には、公労法一七条一項は適用すべきでない旨主張する。しかし、名古屋中郵事件判決は、合理的限定解釈論の立場によることなく、公労法適用下にある五現業及び三公社の職員につき、勤務条件決定の面からみた憲法上の地位の特殊性(勤務条件法定主義及び財政民主主義からの制約)、市場における抑制力等の面からみた社会的経済的関係における地位の特殊性、職務の公共性、代償措置の整備等の諸点から公労法一七条一項の合憲性を説明しており、これはそのまま国有林野事業に従事する職員にも妥当するので、右主張は採用の限りでないが、原告らの具体的主張(一)ないし(三)に即して更に当裁判所の判断を敷衍すれば、次のとおりである。

1  公共性について

原告らは、公労法一七条一項を適用すべきでないことの一つの根拠として、国有林野事業の公共性はさほど高くなく、国民生活に対する争議行為の影響もほとんどないことを主張する。

しかしながら、公労法一七条一項の法意が、公共企業体等の職員の職務の公共性に着目し、争議行為による国民生活への支障防止の趣旨を含むことはいうまでもないが、同規定は、何よりも勤務条件法定主義及び財政民主主義にあらわされている議会制民主主義という国政の基本原則を保持することに主眼をおいているものと解せられ、名古屋中郵事件判決が引用する全農林事件判決が判示するように「勤務条件の決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」から、争議行為による影響の有無、程度いかんによつて、公労法一七条一項の適用の可否が左右されるものではない。

のみならず、名古屋中郵事件判決が職務の公共性につき判示するところは、その業務が本来国民全体のために不断に提供されるべき使命を帯びていることと、業務が国民生活全体の利益と密接な関連を有し、その停廃により国民生活に重大な障害がもたらされるか、又はそのおそれのあることの二点であつて、それを超えて、個々の争議行為によつて直ちに国民の日常生活に重大な不利益を強いるような職務の性質であることまでが論じられているわけではないから、国有林野事業においても、前記のような規模や機能をもつ以上、その職務の公共性は肯定することができるのである。

したがつて、原告らの右主張は失当である。

2  勤務条件法定主義との関係について

原告らは、国有林野事業に従事する職員については、勤務条件法定主義がとられていない旨主張する。

公労法八条は、現業公務員等に対し、賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日及び休暇に関する事項その他労働条件に関する事項について、当局側との団体交渉権及び労働協約締結権を認めており、これに基づき、国有林野事業においても、各種の労働協約が締結され、作業員については、雇用区分や雇用基準までが「雇用区分等覚書」なる労働協約によつて定められているところである。

しかしながら、そのことの故に、国有林野事業に従事する職員について勤務条件法定主義が放棄されているものとみるべきではない。たしかに、公労法が労働協約締結権や公労委による紛争解決制度を認めたこととの関連から、同法四〇条一項、二項は、現業公務員については、その職務と責任の特殊性に基づいて、国公法附則一三条に定める同法の特例を定める趣旨で、同法三条二項ないし四項その他主として人事院の職務、権限の一部に関する規定の適用除外を定めているけれども、同法の任用、分限、懲戒及び服務に関する規定等及びこれに基づく人事院規則は、現業公務員にも適用され(なお、作業員の任用は、人事院規則八―一四「非常勤職員の任用に関する特例」に基づいて行われている。)、また、現業公務員の退職手当、旅費、宿舎については、それぞれ、退職手当法、旅費法、国家公務員宿舎法の適用がある。更に、労働協約の対象となる職員の給与についても、給特法三条において、「<1>職員の給与は、その職務の内容と責任に応ずるものであり、かつ、職員が発揮した能率が考慮されるものでなければならない。<2>職員の給与は、給与法の適用を受ける国家公務員及び民間事業の従業員の給与その他の事情を考慮して定めなければならない。」旨の給与の根本原則が定められている。以上のとおり、国有林野事業に従事する職員その他現業公務員についても、現行の法制度上、基本的には勤務条件法定主義が維持されているのである。

そして、右のような法律や人事院規則に反しない限り、当局側が規則を制定したり、或いは公労法八条に基づき労働協約を締結することは、当然許されるところ、原告ら主張にかかる職員就業規則及び作業員就業規則や「雇用区分等覚書」は、いずれも右の性質をもつものと解されるから、勤務条件法定主義を排斥するものではない。

なお、国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約(三六林協第三五号)により、作業員の賃金の支払形態の一つとして出来高給制が採用されていることは前認定のとおりであるが、これも、公労法八条に基づく労働条件の決定であり、法令に違反しないものと解されるから、勤務条件法定主義と相容れないものではない。原告らは、出来高給制について、その基礎となる功程単価に関する労使の合意が成立しない限り、その間、労働が停廃することを予定している制度であるとか、或いは、労働時間とは無関係に給与が決定されるものであるから、争議行為による労働時間の喪失を容認している制度である旨主張するけれども、出来高給制とは、単に賃金支払形態の一つにすぎないものであり、それの採用により、法令で規定されている作業員の職務執行の義務(国家公務員九六条参照)や勤務時間の定め(給特法六条、作業員規則一九条)が左右されるものではないから、右主張は独自の見解として到底採用することができない。

3  財政民主主義との関係について

原告らは、労働協約締結権と財政民主主義との関係を論じて、国有林野事業に従事する職員には、財政民主主義を根拠とする争議権否認の法理は妥当しない旨主張する。

公労法八条により、右職員らに対し、給与その他の労働条件につき労働協約締結権が認められていることは、既に述べたところであるが、国有林野事業の会計経理は、国会の議決を経た予算に基づいて行われるため、資金の支出を伴う労働協約については、常に予算上支出が可能か否かが問題となり、予算上不可能な資金の支出を内容とする労働協約は、政府を拘束せず、法定の手続による国会の承認を得てはじめて効力を発生するものとされており(公労法一六条)、また、公労委の仲裁裁定についても、右と同様の制約が定められている(同法三五条)。そして、特に職員の給与については、給与準則を定めてこれに基づいて支出しなければならず(給特法四条)、しかも、定員内職員にかかる給与の支出は、国会の承認を経た当該年度の予算の中で給与の額として定められた額を超えてはならないとする給与総額制が採用されている(同法五条本文)。もつとも、この給与総額制については、公労委の仲裁裁定を実施する場合等、例外がないわけではないが、その場合でも、あらかじめ予算でその旨定めておくことが必要とされている(同条但書)から、いずれにしても、予算による制約があることに変りはない。以上のとおりであつて、国有林野事業に従事する職員ら現業公務員にかかる給与等資金の支出については、財政民主主義の制約下にあるものといわざるを得ない。

もつとも、定員外職員である作業員の給与については、給特法五条の給与総額制の規定は適用がないけれども、前記のとおり、同法三条の適用を受けて、給与準則に基づき支出されなければならないことは、定員内職員と同様である。また、<証拠略>によれば、作業員の給与は、予算上、国有林野事業特別会計の国有林野事業費の項中業務費の目から支出されていることが認められるところ、財政法二三条によれば、国会が議決する予算の歳出の区分は項までではあるけれども、林野会計法一一条二項により、毎会計年度国会に提出する同特別会計の予算には、歳入歳出の予定計算書、当該年度の国有林野事業勘定の予定損益計算書及び予定貸借対照表等を審議のための参考資料として添付しなければならないことになつているところから、作業員の給与は、国有林野事業費として予算に組み入れなければ支出できないものであり、かつ、同事業等の業務量、作業量の雇用人員、給与等は国会の審議の対象となり、又はなりうるものである。したがつて、作業員の給与についてのみ、財政民主主義の制約がないと解するいわれは全くないといわなければならない。

三  名古屋中郵判決と代償措置に関する原告らの主張について

原告らは、昭和五七年度の人事院勧告凍結等によりいわゆる代償措置が有効に機能しないことが明らかとなつたのであるから、代償措置の存在を一論拠として争議行為禁止の合憲性を説く名古屋中郵判決は、もはや妥当しない旨主張する。

<証拠略>によれば、昭和五七年度の国家公務員の給与改訂に関する人事院勧告は政府によつて凍結され、また、五現業及び三公社の職員の賃上げに関する公労委の仲裁裁定も、国会の議決を経たにもかかわらず、夏期手当及び年末手当については実施されなかつたことが認められる。しかしながら、<証拠略>によれば、右人事院勧告の凍結は、未曾有の危機的財政事情を理由として、三三年ぶりに行われた異例の措置であることが認められる。これに対して、本件各ストが行われた昭和四七年当時は、人事院勧告の完全実施が定着し、仲裁裁定も昭和三一年以来の完全実施が継続している情勢下にあつたことは、公知の事実であるから、本件各スト当時に、代償措置の制度が機能していなかつたとはいえず、したがつて、本件各ストに対する公労法一七条一項の適用をめぐる名古屋中郵判決の意義は、少しも失われていないというべきであるから、原告らの右主張は採用の限りでない。

四  再抗弁3について

1  原告らは、本件各処分は、いずれも懲戒権者たる被告らが裁量権を濫用して行つたものであるから無効である旨主張する。

最高裁判所昭和五二年一二月二〇日判決(民集三一巻七号一一〇一頁)が判示するように、「公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されて」おり、「懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきであ」り、「したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきもの」と解するのが相当である。

そこで、右の見地に立つて、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて、以下検討する。

2  まず、本件各ストの規模や態様等についてみるに、前記認定のとおり、本件各ストは、全国的規模のストライキ(本件四・八スト及び五・二五ストはいわゆる全山ストであり、本件四・二七ストは、拠点ストではあつたが、公労協統一行動でもあつた。)で、しかも、あらかじめ決定された計画に基づき遂行されたいわゆるスケジユール闘争であつた。

そして、これに参加した原告らは、上司からの再三にわたる事前の警告や職務命令にもかかわらず、本件四・八スト及び四・二七ストにおいてはいずれも八時間、本件五・二五ストにおいては五ないし六時間にわたつて、それぞれ職務を放棄したうえ、本件四・八スト及び五・二五ストの際には、いずれも大栃営林署構内(庁舎玄関前)で庁舎管理権者らの解散要求を無視して無許可職場集会を強行し、また、本件四・二七ストの際には、一部の原告らが大栃営林署署長室に無断侵入し、被告署長の退去命令を無視して約一時間にわたり座り込みを強行し、被告署長に対し、自らの要求の上部進達を迫るなどしたものであり、そのため、職務放棄に当然伴う業務の遅滞等が生じたばかりでなく、来客の庁舎への出入り、職員等の署長室への出入り、署長室に接続して執務する他職員らの職務執行等が妨害され、大栃営林署における正常な業務の遂行に少なからず支障が生じたものであつて、その情状は軽視し難いものといわなければならない。

3  ところで、原告らは、全林野の諸要求に対し林野庁の対応が不誠実であつたため、やむにやまれず本件各ストを実施した旨主張する。

(一) まず、本件四・八スト及び五・二五ストについてみるに、全林野が要求していた作業員の臨時的雇用制度の抜本的改善の問題は、前記認定のとおり、法律及び人事院規則の適用、常勤化防止の閣議決定との調整、他省庁における同種事例との調整等の検討が必要であつて、前記政府統一見解に示されたようにいわば政府全体の問題として国家公務員制度の根幹に触れるものであり、しかも、究極的には立法上又は予算上の措置を要する事項として、国会の意向と無関係には決し得ないものであつて、林野庁当局をも含め政府において独自に抜本的な解決を期待しうる性質のものではなかつたのであるから、この点に関する林野庁の態度を非難する余地はないものといわなければならない。もつとも、<証拠略>によれば、作業員のうち、基幹的な要員につき、定員外職員としつつも常勤職員として扱うことを骨子とする基幹作業職員制度が昭和五三年一月から実施されたが、そのためには別段法令の改正又は制定を必要としなかつたことが認められるけれども、右制度が実施されるまでには、関係省庁との調整、意思の統一はもとより、度重なる国会審議を経ていることが認められるばかりでなく、そもそも右制度の実施には予算措置が必要であつたことはいうまでもないから、法令の改正又は制定をまたずに基幹作業職員制度が実施されたからといつて、これが政府全体の意思及び国会の意思と無関係に実現されたということはできず、したがつて、右制度の実現につき林野庁に怠慢があつたとは到底いえないのである。

また、臨時的雇用制度の抜本的改善が実現されるまでの、現行制度内での雇用安定化・処遇改善の問題についてみるに、前記認定のとおり、国有林野事業は、自然的、季節的制約を避け難く、かつ、可能な限り事業経営における収支の経済性を維持することが要求されるが、かかる状況下にあつて、林野庁は、労働協約の締結、行政上の運用措置等によつて、多数作業員の常用化、定期作業員の平均雇用期間の伸長化、常用作業員の定員内繰入れ、各種休日休暇等の有給化等を実施することにより、「二確認」の実現に努めてきたことが認められるのである。しかし、法形式上作業員が定員外職員として期間二か月の非常勤職員として扱われる以上、定員内職員と全く同一の処遇をすることは困難であり、常用作業員と定期作業員との間においても、後者が冬期間失職する身分である以上、両者に処遇上の差異があらわれるのもやむを得ないものがあるというべきであり、現に成立に争いがない乙第五〇号証によれば、昭和四五年度の新賃金事案についての仲裁裁定において、公労委は、現時点における格差縮小の必要を認めつつも「定員外職員は、職務内容、雇用形態、賃金体系等の点で定員内職員と異なつているので、両者の賃金水準が必ずしも同一でなければならぬとは考えない。」旨の見解を示していることが認められるのであり、このことは、同じく定員外職員である常用作業員と定期作業員との処遇にもあてはまるものということができる。したがつて、作業員が定員外職員であることを前提とし、前記のような国有林野事業を取り巻く諸状況を考慮すれば、右のような林野庁による諸々の措置等はもとより、前記政府統一見解後の処遇改善をめぐる労使交渉の経緯、その中で林野庁が提示した別紙(四)記載の「常用・定期作業員の処遇改善の目標案」の内容等についても、一応評価すべきものを含んでいると認められるのである。それ故、右林野庁の対応を不誠実ということは相当でない。

(二) 次に、本件四・二七ストについてみるに、前記認定事実に、<証拠略>を総合すれば、昭和四七年度の賃上げに関する林野庁による自主回答額(月給制職員につき四七一〇円、日給制職員につき二〇五円)が前年度の賃上額(月給制職員につき七四一三円、日給制職員につき三三〇円)を下回つていたことは否定できないけれども、著しく悪化の傾向を示す財政事情下にあつて、右回答額は、一応物価上昇率を上回つていたことが認められ、この種の事案においては、公労委による調停仲裁が比較的よく機能していたことをあわせ考えれば、林野庁の右対応が不誠実であつたとまで評価することはできない。

(三) 以上のとおりであるから、原告らの右主張は採用できず、全林野の諸要求に対する林野庁の態度は、本件各処分に関する裁量権の濫用の有無を判断するにあたり、格別考慮する必要はないものというべきである。

4  原告らは、また、当時の判例によれば当然許されるものとの認識で本件各ストを実行した旨主張する。

たしかに、本件各スト当時、東京中郵事件判決並びにこれに引き続く都教組事件判決及びいわゆる全司法仙台事件に関する最高裁判所大法廷昭和四四年四月二日判決(刑集二三巻五号六八五頁)が判例となつており、東京中郵事件判決は、労働基本権に対する制約根拠として「国民生活全体の利益の保障という見地からの当然の内在的制約」をあげたうえ、具体的にどのような制約が合憲とされるかについて、<1>制限は、合理性の認められる必要最小限度にとどめるべきこと、<2>制限は、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきこと、<3>制限違反に伴う法律効果、特に刑事制裁は必要やむを得ない場合に限られること、<4>制限には、それに見合う代償措置が講ぜられるべきこと、の四条件を考慮に入れ、慎重に決定する必要がある旨判示し、また、後二者の判例は、いずれも争議行為等禁止規定の合憲性の判断にあたりいわゆる合理的限定解釈論を採用し、「具体的な行為が禁止の対象たる争議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と、労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益との比較較量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断することが必要である」旨判示している。

しかしながら、これらの判例は、いずれも専ら争議行為処罰規定の合憲性の有無について判断したものであつて、争議行為禁止規定違反を理由とする懲戒処分等の民事上の制裁との関係での当該規定の解釈についてまで直接触れたものではないから、争議行為禁止規定違反を理由とする懲戒処分の効力を判断する際にも、右規定の解釈につき合理的限定解釈論を採用すべきであるかどうかは、必ずしも明確ではなかつたというべきである。

また仮に、右の点を肯定するとしても、禁止規定にいう争議行為に該当するか否かは、当該争議行為に関する諸般の事情を総合して判断されるべきであるから、事前に争議行為が許容されるかどうかを判断することは著しく困難であり、それによる危険の負担は、最高裁判所の判断が右の限度にとどまつている以上、争議行為に出た勤労者に帰せしめてもやむを得ないものといわなければならない。

ちなみに、右判例後の下級審の裁判例をみると、おおむね、<1>禁止規定に合理的限定解釈を施したうえ、当該行為は右規定に違反するとするもの、<2><1>と同様合理的限定解釈を施したうえ、当該行為は法律の禁止する争議行為には該当しないとするもの、<3>限定解釈については全く触れないまま、禁止規定を合憲とし、当該行為は右規定に違反するとするもの、の三つに分類でき、必ずしも、争議行為が容易に許されるとの方向で統一されていたわけではなかつたのである。

以上のような事情からすれば、原告らが、本件各ストが当然許されるものとの認識にあつたとは考えられないし、仮に、そのような期待をもつて行つたとしても、既に述べたように期待に反する結果は自らが受忍すべきであるから、裁量権の濫用を判断するにあたつて考慮されるべき事情とはなり得ない。したがつて、原告らの右主張は採用できない。

5  次に、処分の均衡について検討することにする。

<証拠略>によれば、本件各処分以前(但し、昭和三八年以降)に、原告番号2、67、75、76、79ないし86、89、90及び97の原告らは、懲戒処分及び事実上の矯正措置を全く受けていないのに対し、その余の原告らは、すべて懲戒処分等を受けていることが認められ、前認定の諸事情に右認定事実を総合すれば(別紙(二)処分事由等一覧表参照)、本件各処分についての処分選択の基準は、おおむね、<1>本件の三回のストライキにすべて参加した者は、庁舎内座り込みの有無及び右前歴の有無にかかわらず減給四か月、<2>二回のストライキに参加した者は、前歴の有無にかかわらず減給三か月、<3>本件四・二七ストのみに参加した者は、前歴の有無にかかわらず減給二か月、但し、庁舎内座り込みを行つた者は減給三か月、<4>他のストライキより職務放棄時間の短い本件五・二五ストのみに参加した者のうち、前歴のある者は減給一か月、前歴のない者は戒告、となつていることが認められるところ、右認定の処分基準については、本来考慮されるべき要素から形成されていて他事考慮もなく、かつ、それ自体に格別不均衡はないものと評価することができる。

そして、<証拠略>によれば、全国的規模で行われた本件各ストに参加した者のうち、全林野中央本部執行委員一三人に対しては停職一二か月、同地方本部の三役及び執行委員に対しては停職一五日ないし八か月、分会の組合員中、三万一七二〇名に対して減給一ないし四か月、二三一名に対して戒告の各懲戒処分が行われたことが認められるから、本件各処分は、ほとんどの者が減給処分という全国基準にも沿つているものといえ、他に本件各処分と、本件各ストに関する他の懲戒処分との間の不均衡を疑わせる証拠は全くない。

また、<証拠略>によれば、全林野が昭和四六年四月から同年五月にかけて三回にわたり実施した各半日の拠点ストライキについては、分会の参加組合員に対しても、主として減給処分が行われたこと、昭和三八年から本件各ストまでの間に原告らが参加したストライキに対する懲戒処分の状況は、昭和三八年から同四二年までは、いずれも二時間以内のストライキであつたこともあつて、ほとんどの者が戒告又は事実上の矯正措置にとどまつていたが、昭和四五年一二月の常勤性確立のための半日ストに対しては、原告らのうち、六〇名が減給一か月、八名が戒告の各懲戒処分を受けていることが認められるから、このような過去の処分状況と比較しても、本件各処分が格別厳しいとはいい難い。

6  これに対して、原告らは、本件各処分は、昭和四九年以降分会の参加者に対しては処分していないことと比べて不当に重い旨主張する。

<証拠略>によれば、昭和四七年一〇月から昭和五〇年五月頃までに行われたストライキに対する昭和四九年一月二六日付及び昭和五〇年六月四日付の懲戒処分の際には、分会の単純参加者に対しては何らの処分もなされなかつたことが認められるけれども、<証拠略>によれば、その理由は、昭和四八年の春闘の収拾にあたり、同年四月二七日、政府と春闘共闘委員会とは、「労働基本権問題については、第三次公務員制度審議会において今日の実情に即して速やかな結論が出されることを期待するとともに、答申が出された場合はこれを尊重する。政府は労使関係の正常化に努力する。」など七項目の合意を行つたこと、同年九月三日、「公労使各側委員とも、わが国の公共部門における労使関係の実情を現状のまま放置すべきではなく、労使の相互不信感を排除し、労使関係の正常化を図り、節度ある労使慣行を確立することが急務であること」等の基本認識に立つて「答申の趣旨にのつとり、労使関係の改善のために、労使はもとより政府としても最大の努力を払うべきものと考える。」とする第三次公務員制度審議会長答申「国家公務員、地方公務員及び公共企業体の職員の労働関係の基本に関する事項について」が内閣総理大臣宛に提出されたこと、昭和四八年一一月一六日、ILO・結社の自由委員会が、第一三九次報告三三二において「懲戒処分の問題に関しては、委員会は、従前に述べたこと、すなわち、制裁の適用に対する弾力的な態度は、労使関係の調和的な発展に一層資するものであるということを繰り返すのみであり、制裁の適用に関して、特にストライキ参加に対する制裁の適用から生ずる報酬上の恒久的な不利益及び関係労働者のキヤリアに対する不利益な結果について政府に示唆したことを想起することを理事会に勧告する。」との勧告をしたこと等の事情があり、政府としても、ストライキに対する懲戒処分については弾力的な運用をして、労使関係の正常化を図る必要があつたことによるものであり、本件各処分が行われた当時には、右のような事情は存しなかつたことが認められる。したがつて、本件各処分と右昭和四九年から昭和五〇年にかけての状況を比較することは失当であり、原告らの右主張は採用できない。

7  以上を要するに、右に述べたような本件各ストの規模や態様、それによる業務阻害の状況、原告らの処分歴、全国の処分との均衡、過去の処分との均衡等の諸事情を総合すれば、原告らが単純参加者であることを十分考慮しても、本件各処分は、いずれも社会観念上著しく妥当を欠くものとまでいえず、被告らが処分権者として委ねられた裁量権の範囲を超えてこれを濫用したとまで認めることはできない。

8  なお、原告らは、国有林野事業の公共性は薄弱であるのに、これを無視してなされた本件各処分は、裁量権の範囲を逸脱している旨主張する。

原告らの主張する公共性の意義は明確ではないけれども、前記のとおり、名古屋中郵判決が職務の公共性について判示する点、すなわち、その業務が本来国民全体のために不断に提供されるべき使命を帯びていることと、業務が国民生活全体の利益と密接な関連を有し、その停廃により国民生活に重大な障害がもたらされるか、又はそのおそれのあることの二点は、国有林野事業にもあてはまるのであつて、その意味での公共性は肯定できる。

次に、右主張にかかる公共性を、個々の争議行為によつて国民生活に与える影響という意味に理解してこれを検討するに、たしかに本件各ストによる国民生活への影響は確定的には論じえないが、大栃営林署の業務に支障が生じたことは前認定のとおりであり、また、本件各ストが全国的規模で連続的に計画されて実施されたことを考えると、国有林野事業の規模や機能に鑑み、事業や国民生活に対する影響が全くなかつたものと断定することはできない。のみならず、公労法の適用を受ける国営企業、公共企業体において、職員により争議が行われた場合、その事業及び国民に対する影響を直ちに物理的に測定できる企業体とそうでない企業体があるのであり、後者の企業体にあつて、個々の争議の影響が物理的に測定し難いとの理由で争議関係者に対し処分をせず或いは重くない処分のまま放置することは、等しく公労法の適用下にありながら一部の企業体の職員についてだけ法により禁ぜられた争議行為の続発を容認することにつながるおそれがあるし、また、その積重ねがいつしか重大な影響の発生へと発展しかねないとも限らないのである。そして、争議行為禁止の主たる理由が、勤務条件法定主義及び財政民主主義にあらわされている議会制民主主義の尊重にあることを前提として、ストライキの規模、態様等本件にみられる前記諸事情を勘案すれば、ストライキの影響の度合いを確定的に測り得ないとしても、本件においては、そのことが処分の軽重の当否を判定する決定的な要因とはなり得ないものというべきである。

したがつて、原告らの右主張は採用できない。

五  小結

以上のとおり、原告らの再抗弁は、いずれも理由がない。

第四  結論

以上の次第であつて、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一 坂井満 大谷辰雄)

別紙(一)ないし(六) <略>

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